求道blog

辺見庸『自分自身への審問』

Posted in 書籍一般 by UBSGW on 2006年9月24日

ここ数年、経済的復調の一方で日本が、また世界が政治的に激変しつつあるという感じを持っていますが、この本を読んでみて目から鱗が落ちる思いがしました。

久方ぶりに復帰した社会は、清貧も精励も美徳ではなくなっただけでなく、いまや嘲られかねない。消費と投資がもてはやされ、射幸心をもつも煽るも罪悪視されなくなった。以前からそうだったと言えばそうだが、人が生きていく価値の座標が目下、劇的に変わりつつあるのは疑いない。

市場におけるゲームのルールとは・・・人の心や躰は断じてお金では買えない、というふりをすること。市場はあくまでも厳正な法治下にあり公正に運営されている、というふりをすること。起業家や資本家は社会や弱者に貢献している、というふりをし、それらのまっ赤な嘘を最後まで貫きとおすことです。そういう意味ではIT成金のあの青年は海千山千に見えて、その実、素朴すぎるほどの資本主義観しかもちあわせていなかった、ということでしょう。

そのほか、大病を抱えた著者の血を吐くような叫びが聞こえてくる本です。

中村稔という詩人の、

物言うな、/かさねてきた徒労のかずをかぞえるな

という言葉に感応しながらも、それでも叫ばずにはいられない著者の葛藤というか、苛立ちに共感を覚えました。

最後に、

私は怒ってばかりいた。何よりも自分自身に、だ。人との関係のあらかたを壊してしまう私自身に、だ。心の底から慈しむつもりが、逆にずたずたに傷つけてしまう私自身を憎んだ。

この言葉が最も心に残りました。というか、まさに自分自身がそうだ。

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