求道blog

日本はcrazyなのか

Posted in 政治 by UBSGW on 2007年3月31日

従軍慰安婦問題に関して日本は四面楚歌になりつつあるようだ(というより既に四面楚歌だと言うべきか)。安倍首相のお詫び発言も沈静化にはつながっていない様子。中韓は言うに及ばず、欧米からも聞こえてくるのは非難の声ばかり。もちろん個人的には日本の立場に同情的な論評もないことはない。日本との縁も深いジェームズ・アワーが産経新聞に寄せた評論(キャッシュ)を偶然見かけて読んでみた。これが産経の言うような「正論」かどうかはさておき、個々の意見は日本でも海外でもそれなりにまちまちであることは当然といえば当然のことだろう。

しかしながら現状では日本政府の言う「正論」は海外においては「暴論」と受け取られていることもまた疑い得ない。カナダ下院の決議は僅差での可決だったが〔注1〕、公式謝罪や保障実施を日本に促すよう(カナダ外相に)要求する内容〔注2〕とのことだ。また、朝鮮日報はドイツの新聞論評を引用する形で暗に日本政府を批判している〔注3〕

どうも安倍首相は自分の発言が否が応でも海外にまで届くのだ(そして多様な受け取られ方をする可能性があるのだ)という点に配慮が欠けているように私の眼には見える。いっぽう今の日本には安倍さんの強気の発言を歓迎する空気が確かにある。朝鮮日報によれば上記南ドイツ新聞が次のように論評しているらしい(南ドイツ新聞のサイトでは当の記事が覗けなかった)。
「支持率が急落している安倍首相は、かつて性の奴隷となった高齢の女性には心の傷を負わせながらも、日本国民の半数には民族主義的な発言が支持されるだろうという卑劣な計算をしている」
安倍さんの強気の発言を当然のこととして受け容れる日本人は少なくない(というより多いとはっきり言うべきだろうか)。

もちろん、安倍氏の国内向けパフォーマンスはそれ自体非難されることでもないだろう(たとえそれが下手くそな演技者のそれであるとしても)。なにせそれが政治家の仕事なのだから。しかし安倍さんはどこかのゴロツキ政治屋ではない(はず)。首相という立場に(今は)いる。ゴロツキ政治屋はそこらじゅうにいて、それはなにも日本に限った話ではない。わざわざ海の向こうのマスコミがある国のゴロツキの言動についていちいち論評することもまずなかろう。

それどころか日本一国の動向など、諸外国にとっては日本人が思っているほどには重要なトピックではないだろう。それは自分たちについて振り返ってみれば分かる。カナダで何が起ころうと、バスクでテロが起ころうとまず日本ではニュースにならない。外国で何が起ころうとまずは「邦人は無事」「邦人乗客行方不明」というわけで、日本・日本人に関わりがあればともかく、そうでなければ誰の興味も引かない。それが自然な反応だろう。

しかし、日本政府の言動に逐一諸外国が反応を示すことはないにしろ、彼らには何も聞こえない・何の興味も持っていないというわけではもちろんない。一朝事あらば情報は瞬時に筒抜けになるご時世なのだから。

先日の英国人女性講師殺害事件を知ったとき、すぐさまgoogle newsで海外での報道をチェックしてみたが、日本での報道とほぼ同時にイギリスはもとよりカナダ・オーストラリアほか英語圏の国々でも詳しく報道が為されていた。そんな時代にわたしたちは生きている。

この講師殺害事件は日本にとっては具合の悪いタイミングで起こったと私は感じている。様々な異論はさておき女性を性的に虐待した従軍慰安婦問題に関して総スカンをくらっている中で起こった女性講師殺害。共通するのはさしあたり「女性」という点だけだろうが、この二つが混じり合って日本への悪感情が醸成されても不思議なことではあるまい。

女性に関する問題で「いわゆるバッシング」を浴びている最中、パフォーマンス好きの安倍首相はいっそのことこの事件捜査の陣頭指揮をとるくらいの姿勢を対外的に示されてはどうだろうか。確かに捜査の進展には毫も寄与しないだろう。邪魔になるだけかもしれない。たぶんそれは事実だろう。しかし世界は事実だけで成り立っているわけではない(事実は所詮は素材である。もちろんそれはとても重要な素材ではあるが)。

「慰安婦は金を目当てに自分から飛び込んできたんだからさ」とあくまでも突っぱねた挙句、自分たちのテリトリーで起こった外国人女性殺害も通り一遍の捜査しかしない日本人に対して世界は北朝鮮に向けるものと同じそれを向けはしないか。それは一面不合理かもしれない。日本人だろうが外国人だろうが同じ捜査をやるのだ。特別扱いは不平等であり、また逆に日本人を逆差別することにつながるとも言えよう。それこそ「正論」かもしれないが、正論だけで世の中渡っていけるはずもないことは政治家の方々が一番よくご存じの筈だろう。「政治には金がかかる」。

法的には問題はない
合理的に考えるべきだ
事実か否か疑念が残る

そんな言葉は人間の感情の前には何の力もない。安倍さんを筆頭に、今の私たち(日本人)には人の感情に対する配慮が決定的に欠けているように私は感じる(もしそれが私一身の欠点に過ぎないのなら喜ぶべきことだ)。誰しも身近な人間(や選挙民の如き利害関係者)の感情を慮ることはさほど難しいことではない。問題は姿や顔の見えないまったくの他人へのそれだろう。

見ず知らず、会ったことも存在することすらも知らない赤の他人の感情に配慮することにはある種の能動性が必要になる。想像力が要る。しかし現実には親殺し子殺しがめずらしくもなく、姿の見えない赤の他人への配慮などは希少価値すら持ち始めたかに見える。よく言えば自己の信念に忠実な、そしてそれしか見えない安倍さん型(ストーカー型?)のあり方が最早ありふれたものになりつつあり、病的なまでに昂進している。そんな日本に対する一般的な印象がこの際さらに悪化しても私は不思議とは思わない。

先の講師殺害事件に関連して、イギリスの新聞に次のような文言を見つけた(同様の記事は日本の新聞も報じていたが、その時は気にも止めなかったが改めて英文を読んでいささか考えさせられた)。

Ms Hawker later mentioned the stalker in an email home to her boyfriend, describing the incident as an example of “crazy Japan”.

”British teacher died from suffocation”(The Independent)

“crazy Japan”
何と訳すのが適当なのかわからない(ちなみに朝日新聞はこれを「日本は変わった国」と訳していた)。日本で生活している私たちは自分たちの社会を狂った社会だとは思ってはいない。そう思いたくない。しかし「あなたたち、おかしいよ」と言われてみればそれを否定できるだけの確信が少なくとも今の私には持てない。

そうしたなかで今朝新たにcrazyな言い分を報ずる記事に接した。

文科省は「軍の強制は現代史の通説になっているが、当時の指揮官が民事訴訟で命令を否定する動きがある上、指揮官の直接命令は確認されていないとの学説も多く、断定的表現を避けるようにした」と説明

「『軍強制』検定で修正 沖縄戦集団自決の7カ所 08年度採用高校教科書」(西日本新聞)

尚、ここで言われる民事訴訟は産経新聞によれば「作家の大江健三郎氏らの著書で自決を命令したと名指しされ名誉を傷つけられたとして、座間味島の守備隊長だった元少佐らが17年に大江氏らを大阪地裁に提訴」したことを指している。〔注4〕

慰安婦らとこの元少佐の両者については、どちらも名誉や尊厳を傷つけられたとして訴え出たという点で等価というべきだろうが、片や鋭敏に過ぎると思えるほどの配慮を見せるかと思えば他方では諸外国の批判を「あっちとはそもそも議会制度の成り立ちが違う」などという(反論としては)頓珍漢な遁辞を弄して批判を批判として受けとめない。

また、両者は強いて言えば「証拠がないから断定できず」という点が共通しているとも言えようが、彼らどちらも単に事実を確定させたいが為に提訴したわけではなかろう。彼らにとっては事実か否かということは自らの尊厳を回復せんがための副次的な要素に過ぎないと思われる。それにもかかわらず近年の一部政治家たちが常套句とする「事実かどうか」「断定できない」という言葉はまるであさっての方角を向いているように感じられるが、そんなものは「学者の言葉」ではあっても「政治家の言葉」ではなかろうと素人の私は思うがどうだろう。
ここで念のため言い添えておくが、これは何も学者や政治家を貶めようとするものではない。学者は学者の言葉を、政治家は政治家の言葉を使えばよい。しかし都合のいいときにだけ政治家が学者・歴史家の言葉を使って言い逃れを図る卑怯さに途方もない醜さが感じられはしないかということだ。

もちろん、政治家は学者ではないと言うことくらいは「歴史認識は後世の歴史家に委ねる」と述べられた安倍首相もよく承知されているだろうから、(証拠の有無は専門家に任せて)政治家として適切な対応を今後はなされることを期待している。それとも安倍さんは行政府のトップでありながら「文科省の言い分は私のものではない」と仰るのだろうか。

注1

野党・新民主党の議員が提出し、27日の採決は賛否が3対3で割れたが、与党・保守党の委員長が賛成に回った

「『日本政府に圧力』 慰安婦めぐり決議 カナダ下院小委」(朝日新聞)
注2

旧日本軍のいわゆる従軍慰安婦問題で、日本の国会の公式謝罪決議や補償の実施を安倍首相や国会に促すよう、マッケイ外相に要求する動議を採択

「『慰安婦問題』カナダ下院小委が動議採択」(読売新聞)
注3

日本政府による強制連行を否定する発言を強く批判する声が、米国のみならずドイツやカナダからも
(中略)
ドイツの日刊紙「Sueddeutsche Zeitung」は28日、「安倍首相は内政での失点を挽回(ばんかい)するため、日本軍がアジアで性の奴隷を搾取した事実を公の場で否定した」と非難

「慰安婦:『日本は謝罪すべき』 世界各国で非難の声」(朝鮮日報)
注4
「高校教科書検定 沖縄戦集団自決「軍命令」を修正 否定説有力、方針変更」(yahoo news産経)(キャッシュ


なんにつけ、あまりにもご都合主義が過ぎないかい?
素材(事実)の吟味に拘っていつまでたっても飯を出さない料理人なぞただの馬鹿だ。餅は餅屋に任せなよ。そうしてつまみ食いもやめときなよ。

(2007年4月1日夜一部改稿)

(追記)
沖縄戦集団自決に関する参考記事:
「大江健三郎という病」(池田信夫blog)
沖縄集団自決冤罪訴訟を支援する会

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