求道blog

農地買いますか?(改)

Posted in 社会 by UBSGW on 2007年10月4日

今日も快晴。秋とは思えぬ陽射しが続く。

中山間地にあたる我が家の回りでは米の収穫がたけなわ。高齢化の進む地方の農村地帯では、農業後継者は少なく、在住の壮年者もたいてい勤めに出ていて、基本的に農作業は高齢者の仕事。で、今日は隣のお宅から「息子がどうしても勤めの方を休めない!」と急遽動員がかかって収穫作業のお手伝いに行く。実は、うちもようやく昨日収穫作業が一段落したばかりで今日は休養日のつもりだったがそうも言っていられない。力仕事くらいなら私でも少しはお役に立てる(はず)。私はなにも力自慢のタチではないが、なにせ回りは老人ばかりで働き盛りは片手で数えられるくらいしかいないのだ。

生産性が極めて低い小規模農業はそう遠くないうちに日本から姿を消しそうな気配だ。それはもう肌で感じている。キャベツ一玉の小売価格が百円程度では、仮に人件費を度外視しても利益なんてまず出ない。もちろん人件費を考慮すれば大赤字。薄利多売のスーパーマーケットならぬスーパー大規模経営で大型機械を導入するなり外国人労働者を時給ウン百円で酷使するなりして人件費比率を極限まで抑えぬ限りは利益なんてまず出ない。つまり零細農=趣味の園芸に限りなく近い。当然そういう農家は農業専業なぞ無理。よって平日サラリーマン&日曜農家の二足わらじがあたりまえ。しかし利益がでようが出まいが農地を放置するわけにはいかないのだ。ほっておけば田畑は荒れ果て、果ては猪の住処となって周辺農地を食い荒し近所迷惑。やむなく食い扶持は勤めで稼いで農繁期の休日は農作業で休み無し。これがこのあたりの現状なのである。先祖伝来の農地を休日だけの作業で維持していくために、無理しても農機を買い整え(だって限られた時間で作業を終えるにはどうしても機械化せざるをえない)、休みはなし。

そういう農家は日本全国、たくさんある(はず)。

したがって今の日本にはそもそもわずかな農地だけを耕して生活している人という意味での「零細農」、文字どおりの意味での零細農というものはもうほとんど存在しない。そんなものはもうとっくに"兼業農家"になっている。

「ほかに食い扶持あるんならさっさとやめちゃえば?」「そんな連中に補助金じゃぶじゃぶ使うのはおかしいじゃないか」と思われる方もおられるかもしれない。消費者としての立場から言えば割高な農産物は有り難くない。とっとと農産物輸入を自由化して安いものが買える方が消費者利益にかなう(金銭的にはね)。ただ、農村部居住者の目から見ると、(ほんとうに補助金じゃぶじゃぶかどうかはさておき)兼業農家における農作業はいってみれば先祖の墓掃除・法事のようなもの。利益のことなぞそもそも眼中にはない(そもそも赤字なんだから)。したがって営農は生活手段というよりもまあ先祖供養に近いものがある。一種の宗教行為というわけ。

民主党の戸別補償制度にはいささか疑問を感じる私だが、しかしまあ、近年農家の立場はかなり微妙。一部からは蛇蝎の如く悪罵を浴びせかけられる。たとえばこれ。

「農業問題に詳しい神門善久・明治学院大学教授」の弁。

マスコミは「零細農家イコール弱者」のような形で描きたがりますが、現実には彼らほど恵まれた人たちはいない・・・農地を売却すれば大金を手にできる。「田んぼ1枚売って何千万円も儲けた」なんて・・・「農業に行き詰まり、生活苦のために零細農家が一家心中した」などという話は聞いたことがありません。零細農家には切迫感がない・・・彼らが本当に求めているのは公共事業なんです。公共事業で道路などを作ってもらえれば、自分たちの田んぼや畑が高く売れる・・・

「農家切り捨て論のウソ」(日経ビジネスonline)

このあとも延々この調子が続く(この学者さんの専門領域はアジテーションなのかと思う)。

公共事業縮小が続くなかどこの農家がそんなものに期待しているというのだろうか。もしそんな農家があるとしたらノーテンキ極まりないと私も思う(「とれぬ」タヌキの皮算用)。そもそもかつての地方公共事業大盤振る舞いの時代にさえ、そんなものに引っかかる農地なんてそうそうなかった。たぶん宝くじに当たる(あるいは冤罪に巻き込まれる)くらいの確率だったんじゃなかろうか。そりゃ宝くじ買った数十万か数百万の人たちはみんな当選を「期待」するわな。だいいち代々続く農家は公共事業にかかったところで嬉しくはないぞ、たぶん。いっときだけの大金と先祖伝来の土地に対する愛着(いや、義務感・使命感に近いな)をゼニカネだけで比較されても困る。そりゃそんなもんがアナクロだってえこた百も承知。しかし現にそういう心情はあるんだよ。自分一代限りで跡形もなく消えてしまう「知識」のコレクターには全く理解の外だろうが。そういうコレクターでも自分の著書が後代に伝わるとなったら嬉しいだろ?それほどの「著作」があればの話だが。

農地を売ってウン千万?いったいどこの話をしてるのか。大都市近郊?農地のうちでそんな高値で売れるものが全体の何パーセントあるの?「論拠を示せ!」。たしかにこの学者さんが後ろの方で書いているように、農地法の縛りがあるために農地はそうそう簡単に宅地等に転用は出来ぬ。使い勝手の悪い商品が安く買いたたかれることぐらいは経済が専門でなくてもわかるでしょ(ひょっとして経済専門?まさかね)。坪ウン千円だそうですよ、地方の農地って。いくら安かろうが、大枚はたいて機械を買い整えて休日つぶして働かねばならぬ土地をウン千万だして買いますか?千円なら買う?どうぞどうぞ買って休日つぶして精一杯働いてください。

いやはや、これではキリがないのでやめとこう。言いたいことは山ほどあるが。

学者つーのはもちっとマトモだと思ってたんだが・・・。いや、どこの業界にも●●はいる。木を見て森を見ずってのは中学校で習ったっけ・・・。この人、初めて聞く名前だけど、マスコミに名前が出るつんで嬉しくてよほど調子に乗ってしまったんだろうな。お調子もんもやっぱりどの世界にもいるのだろう。メディアの力つうのも罪なもんですわ。合掌。しかしこの方にとって、学者としての資質に欠けると看做されかねない論を公にすることで何か益するところがあったのだろうか。はなはだ疑問ではある。

うん、これただのボヤキ。ちょっと反省。

あああああ、世にあまたおられる良心的な学者の方々に対してなんと無礼な物言いをしてしまったことか・・・。阿部先生、池田先生、ウォーターマン先生、ウチダ先生、蕩尽亭先生、ハインペル先生、白頭庵先生その他諸賢の御方々、御無礼の段、何卒お許し下さいませ・・・・。決して学者を十把一からげにするつもりなどございません。絶対に。

ほんと、こんなんではまるでどこかのゴロツキみたいではないか。まったく、「お里が知れる」というもの・・・。え、とうの昔に知れてた?。そうですか。むむ。


(2010/11/12追記)
兼業農家の実状(機械化貧乏、農地への執着)、神門氏の所論への言及という点でこのエントリと似た、しかし(これと違って)過去をふまえ現状を冷静に分析し将来に向けた展望を加えたきちんとした文章をたまたま見かけたので紹介する。プロフィールには専業農家とあった。

兼業農家がなぜ赤字をこらえてでも米作に執着する「経済人」らしからぬ振る舞いをするのか、そしてそれが大規模米作専業農家の首を絞める可能性について述べておられる。筆者については全く存じ上げぬが、その所論は私には面白いと思えるものだったので、たぶんウェブ検索でこのエントリにたどり着いた方にとっても面白いのではなかろうかと思う。

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